東京地方裁判所 昭和41年(ワ)4839号 判決 1968年10月24日
主文
1 別紙目録記載の建物の所有権が原告に属することを確認する。
2 被告は原告に対して原告から金一三〇万円の支払を受けると引換えに別紙目録記載の建物につき東京法務局北出張所昭和四一年三月七日受付第七一一七号をもつてなされ売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求原因として、
一、別紙目録記載の建物(以下本件建物という)は原告の所有であつたが、原被告間に原告を売主、被告を買主として、昭和四〇年八月二五日代金二〇〇万円、代金は昭和四一年三月三一日までに完済する約の売買契約が締結され、即日金一〇〇万円、その後間もなく二回にわたり金三〇万円の代金支払がなされ原告は主文掲記の所有権移転登記をなしたが、被告は右弁済期を経過するも残代金七〇万円の支払をしない。
そこで原告は昭和四一年四月中旬までに数回にわたり、さらに同月二〇日、同月二四日までに支払うよう催告したが履行がないためこれを理由として、同年五月一九日被告に到達の内容証明郵便により右売買契約を解除する旨の意思表示をなした。
二、しかるに被告は本件建物の所有権を争うので右建物の所有権が原告に存することの確認と、右解除による原状回復として、原告が受領した売買代金の一部金一三〇万円の支払と引かえに前示登記の抹消登記手続を求める。
と述べ、被告の抗弁に対し、昭和四一年四月頃被告が原告に対し相殺の意思表示をなしたことは否認する。自働債権について
(イ) 借地権譲渡の承諾を原告が地主柏木希典より受ける約束のあつたこと、右承諾料金二〇万円を原告が支払う約定であつたことは否認する。右承諾料は被告において負担する約であつた。被告が右金員を地主に支払つたことは知らない。
(ロ) 本件建物の一か月分賃料合計金七万円は契約面であつて実際の賃料は金六万円である。昭和四〇年一〇月一日から同四一年三月三一日までの賃料を原告が夫矢部謙吉を介し受領したことは認めるが、同月五日被告代理人鳥居正吉と原告との間に於て原告においてすでに受領した賃料は本件建物売買代金と差引相殺しない旨の合意がなされている。
(ハ) 西川正三の賃料が一か月金二万円であり昭和四一年一二月三一日までの分を原告が夫謙吉を介し受領したことは認めるが、右金員は、特約した他の支払金に充当したから被告に対し損害賠償義務はない。
と述べた。
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、
一、原告主張の日に原告所有の本件建物を代金二〇〇万円で売買する旨の合意の成立したことおよび被告が代金として金一〇〇万円を即日後に金三〇万円の計金一三〇万円を支払つたこと(但し実際は三〇〇万円の代金で右の外金一〇〇万円は別途支払つた)、および原告主張の日に本件建物売買契約解除の意思表示の到達したことは認めるが、その余の原告主張事実は否認する。
二、右残代金七〇万円の弁済期が昭和四一年三月三一日であつたとしても、被告は原告に対し次の債権を有するのでこれを自働債権とし、昭和四一年四月頃(四月二七日から五月三日頃までの間に)右金七〇万円の売買代金債権(受働債権)とを相殺する旨の意思を表示し、これによつて右金七〇万円の売買代金は消滅したから被告には債務不履行はない、右の相殺の意思表示が認められなくても昭和四一年一一月一〇日の本件口頭弁論期日に於て答弁書を陳述することによつて相殺の意思を表示した。
自働債権
(イ) 金二〇万円………本件建物売買契約に際し原告において本件建物の敷地の賃借権の名義書換承認料として金二〇万円を地主に支払い昭和四一年三月三一日までに右賃借権を被告に譲渡することの承諾を得ることが特約されていたが原告はこれを履行しないため、被告は土地賃借権を失うおそれがあるので被告は同年四月二七日右金二〇万円を地主に支払つて賃借権譲渡の承諾を得たものであつて、右事務管理による金二〇万円の費用償還請求権
(ロ) 金三二万二〇〇〇円………原告は本件建物の一部を佐藤鉄朗に、一部を西川正三に賃貸していたが、本件建物売買契約に際し、右家賃収入は一か月金七万円あり、昭和四一年一〇月一日以降同四一年三月三一日までの分は原告において取立て、被告に支払うことを特約した。しかるに原告は昭和四〇年一〇月分金七万円を支払つたのみであるから、同年一一月一日から同四一年三月三一日までの分の賃料計金二八万円とすでに原告が受領した同年四月分賃料金四万二〇〇〇円(一部明渡のため減少)計金三二万二〇〇〇円の右約定による請求権
(ハ) 金一七万八〇〇〇円………本件建物の賃借人西川正三に対する賃料債権は金二万円であるところ、原告は同人から昭和四一年一二月三一日までの賃料の先払をうけているので、ために被告は同年四月一日以降一二月末日までの賃料の支払をうけることができず、その額は九か月分の賃料金一八万円である。被告において右期間の賃料をうけ得られることは当然のこととして本件建物を売買したのであるから右は原告の債務不履行であり、これによつて右同額の損害をうけたことによる金一八万円の損害賠償請求権のうち金一七万八〇〇〇円
右相殺の結果、被告の売買代金債務は消滅した。
と述べ、原告の再抗弁事実は否認すると述べた。
証拠(省略)
別紙
目録
東京都北区王子二丁目六番地八〇の仮換地
家屋番号 六番八〇の二
一、木造セメント瓦葺二階建店舗 一棟
一階 三三・九八二平方米(一〇坪二合八勺)
二階 三三・九八二平方米(一〇坪二合八勺)